HELLO WORLDスピンオフ「HELLO WORLD if」を読んだ

HELLO WORLD if ──勘解由小路三鈴は世界で最初の失恋をする── を読んだ。

最初に「そんなに面白くなかった」と言った割にスピンオフまで完全読破してるの、マジモンのツンデレか???

死ぬほどネタバレあるので注意。

 このスピンオフは、言ってしまえば「解答編」に当たる作品であり、この作品についてはあまり考察要素はない。

なので、この文章は前回の考察の答え合わせが主になるわけだが……

ここから推測されることは、恐らく「現実」の花火大会の日、直実は瑠璃を落雷から庇ったのだろう(物理的に無理だろうとか言ってはいけない)。そして直実は長い眠りにつく。

 

その眠りの中で、直実はひたすら瑠璃を目覚めさせようと奮闘するわけだが、その動力源は「もう一度瑠璃の笑顔が見たい」という、悪く言ってしまえば自己中心的な動機。

 

だが、この物語にはルールがある。長い眠りから目覚めるためには『器』と『中身』が一致していないといけない。それは作中で大人ナオミが語った通りである。

 

現実世界の堅書直実が眠りにつく直前の器はどのような人間だったか?大切な人のために自分の命を犠牲にできる人間である。じゃあ今は?

 

夢の中のナオミが瑠璃のためと言って自己中心的な努力を重ねれば重ねるほど、器との乖離は大きくなる。

 

しかし物語終盤の京都駅のシーン。ここでナオミは「大切な人=瑠璃」のために、「自分」ではなく「少年直実」と一緒に幸せになることを優先する。そして最期には自分の命を犠牲にしてその幸せを成就させる。

 

この瞬間、あの日落雷で昏睡状態に陥ったあの瞬間の「堅書直実」との中身が一致する。それは「大切な人のために、自分を犠牲にしてでも行動する」という精神である。

 

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 ↑ こいつめっちゃいい考察しとるやんけ……(自画自賛

 まあ8割がた正解ですね。

この作者さんは「執念に囚われて怪物になってしまった人間が破滅への道を進んでいく物語」が得意らしい。そこもヒントだったのか……

この主人公の様子を表す表現として、「執念」とか「怪物」って表現を使うのよいですね。こういう表現がパッと出てくる人間になりたい。

まあそれはそれとして、結局このスピンオフでも明らかにされなかった謎はいくつか残っている。

 ■謎① 現実世界では、なぜ堅書直実は20年もの間長い眠りにつくことになったのか?

前回の私の考察では、現実世界の堅書直実は雷に打たれそうになった一行瑠璃の身代わりになって意識を失ったのではないかという考察をしたが、それを補強するような追加情報は出てこなかった。

ではなぜ堅書直実は昏睡状態に陥ったのか?

■謎② 結局アルタラとは何だったのか?

私は最初の考察で、「大人ナオミの世界のアルタラは確かに過去を記録する演算装置だったが、大人ナオミのいる世界もアルタラ世界も、結局は現実の堅書直実の夢の中に過ぎない」という主張をした。

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だが、どうやら「カタガキナオミ」の世界も紛れもなく「アルタラ」らしい(ただのアルタラではなく「アルタラII」という名称らしいが……)。

そして同名の別物というわけでもなく、

「わたしは未来から来たんじゃないの。ここが、二〇四七年の現代に記録された過去の世界なの。正確には、国際記録機構研究所にある量子記憶装置アルタラIIが記録している二〇二七年の京都」

と勘解由小路ミスズが言っているように、過去を記録するという同じ役割のものらしい。

ということは何か?現実世界でも2027年には一行瑠璃は雷に打たれて脳死状態になっているし、2037年まで堅書直実は延々とアルタラに侵入を試みていたということなのだろうか?

──と、ここまで考察したところで、ある仮説を思いついた。

実は、「2027年に長い眠りについたのは一行瑠璃ではなく堅書直実だった」のではなく、「堅書直実は一行瑠璃と入れ替わるようにして、2037年脳死になった」のではないか?──と。

まず前提として、アルタラの世界では、何らかの干渉により本来の因果関係が崩れそうになったときに、結果だけ帳尻を合わせて世界を保とうとする性質がある。

それは、本編で花火大会に誘われなかった一行瑠璃が、落雷の時間にテレポートで会場まで運ばれたことからも明らかである。

「堅書直実が一行瑠璃を花火大会に誘う」という原因はどうでもよい。「一行瑠璃が雷に打たれて脳死になる」という結果がアルタラの世界の均衡には必要なのだ。

この前提を踏まえて、本編とこのifの世界の両方に共通するシーンを思い返してみよう。それは、

「堅書直実は最後に胸を貫かれる」

ということだ。

「胸を貫かれる」ということ自体が本質かどうかは分からない。が、胸を貫かれた人間が平然としていられるわけがないだろう。恐らく堅書直実はこのとき脳死になったのだと考えられる。

つまり、作中の終盤で堅書直実が殺されそうになったのは「この世界に堅書直実が2人同時に存在していたから」ではなく、「2037年のこの日に『堅書直実が脳死になる』という結果が確定していたから」というわけだ。

ここからは想像に過ぎないが、恐らく現実世界でも堅書直実は一行瑠璃を取り戻すために執念に燃えていたのだろう。

そして作中と同じように何度もアルタラにアクセスを試み、ボロボロになりながらも一行瑠璃の魂を現実世界の肉体に呼び戻したのだと思う。

だが、堅書直実の肉体は何百回ものアルタラへの突入実験に耐えられるものではなかった。

一行瑠璃が目を覚ましたその日、入れ替わるように堅書直実は長い眠りについた。

目を覚ました一行瑠璃は状況がすぐには飲み込めなかったが、周囲の人と話すうちに、「堅書直実は一行瑠璃を目覚めさせるために、10年間もの間、尋常ならざる執念を燃やしていたこと」「しかしその執念の炎に焼かれた結果、本来の堅書直実の優しさは既に失われてしまい、後には堅書直実の姿をした怪物しか残らなかったこと」ということを理解し、悔しさややるせなさを感じたのだと思う。

そして、昔の優しい堅書直実を取り戻すために、堅書直実が開発したアルタラをグレードアップさせた「アルタラII」の開発をスタートさせたのだ──。

というのが私の想像する物語である。

が、それでは本編のカタガキナオミと同じで、一行瑠璃も自分のエゴのためにアルタラ内の魂を利用しようとしているということにならないだろうか?

私の考えとしては、その通りだと思う。

本来の堅書直実の優しい心が帰ってきた後、一行瑠璃はこう言った。

「あなたには伝えないといけないことがたくさんあります。この時のために、わたしはあらゆる手を尽くしました。中にはあなたが怒り出すようなこともあるかもしれません」

結局、2人は似た者同士なのだ。

だが決定的に違うのは、堅書ナオミが願ったのは「自分や無関係な人間がどれだけ傷ついてもいいが、その代わり一行瑠璃だけは笑顔でいられる世界」であり、一行ルリが願ったのは「誰も傷つかない、2人とも笑顔で過ごせる世界」という点だ。

その1点において、2人の願いは全くの別物であり、だからこそ後者のみがハッピーエンドにつながっていたのだと私は思う。

さて、ここまで私の妄想を書き連ねてきたが、最後のシーンに引っかかるところがある。

二十年。瑠璃と共に戦い続けたことを、研究所の誰もが知っている。

 もし私の妄想が真実だとすれば、最初の十年は直実の戦い、次の十年が瑠璃と三鈴の戦いである。

では、やはり堅書直実が眠りについたのは20年前なのだろうか……?いやそうするとアルタラ内の記録は一体……?

 これを読んだあなた。どうか真相を暴いてください。 それだけが私の望みです。

 

■追記

他の方のレビューも読んで考察を深めてみた。

l-i-l-i.hatenablog.com